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決算書の見方に関する中小企業経営者様と銀行のズレ

  • 公開日:2022年12月23日

税理士法人古田土会計 エキスパートリーダー 森尾 勝俊

中小企業の経営者様にとって銀行から融資を受けられるか否かは、企業の死活問題に発展してしまうこともございます。
ただ、融資の審査において決算書の内容が最重要であることは分かっているものの、銀行員が決算書をどのように見ているのか非常に不安、分析結果をフィードバックしてくれれば今後の経営改善に活かせるのにそれは期待できない、というのが現状かもしれません。

  1. 二期連続赤字はダメ
  2. 債務超過はダメ
  3. 流動比率は120%以上なければダメ
  4. 自己資本比率は30%以上なければダメ

などなど、決算書分析について書籍等を調べてみても「ダメ」「ダメ」の連続で、「正解は何なの?」「何を目指して経営すれば良いの?」と財務に関する悩みは尽きないのではないでしょうか。

そこで今回は、私が現役の銀行員の方にインタビューさせていただきました決算書の見方について解説させていただきたいと思います。

なお、皆さまが銀行員に決算書の見方、財務指標の目安などを質問されても、本音を語っていただけないのが普通です。
ある銀行支店長からお聞きしたお話しです。
「例えば自己資本比率の目安を聞かれたら、最低30%は必要ですとお答えすると思います。実際には、債務超過でさえなければ自己資本比率10%、20%の企業にも普通に融資していますが、目安はと聞かれたら簡単には実現できないであろう高めの数値をお答えしておきます。これは、低めの数値を答えてしまうとその数値に合わせた決算書を作って来られ、数値を達成したから貸してもらえますよね、などとおっしゃる経営者がいらっしゃるからです。自己資本比率30%というのはなかなか達成できない数値ですし、その数値に合わせて決算書を作ろうとすると在庫を急に膨らませるなどの手しかなく、簡単に見破ることができます。もちろん自己資本比率30%の企業の経営者様に目安を聞かれたら50%とお答えする、目安というのはそのようなものです」

銀行員の頭の中には理想のバランスシートができあがっている

銀行員の決算書の見方というと、〇〇比率、〇〇倍率などの指標を算出し、勘定科目一つ一つについて事細かに分析するイメージがあるかもしれません。
ところが、忙しすぎて一社一社丁寧に見ている時間などありません、というのが現実です。
地方銀行の渉外担当者ですと、一人で70~100社を担当されていらっしゃることもあり、一日に5~7社ほど、融資案件を探しに営業訪問されています。
信用金庫・信用組合ですとさらに担当エリア内の個人客も担当していることが多く、法人・個人合わせて300の担当件数になることも。一日の訪問件数が30件になることもあるそうです。
一般企業と同じく新規開拓件数の目標もありますし、法律改正に伴う各種研修の受講や、本部への報告資料の作成、最近では保険や投信信託の販売などの目標も与えられ、一方で支店の行員数は減少傾向にあり、とにかく忙しい毎日を送られています。

そのような中でいかに効率的に担当先企業・新規開拓見込み先企業の決算書を分析し、いかにタイミングよく資金ニーズをつかみ取るかが非常に重要な仕事となります。

銀行員の決算書分析の流れは、経営者の皆さまから決算書を提出いただいた後、本部の担当部署へそのまま提出、本部で決算書の数値をデータ登録、コンピュータにより自動的に3~5年分の決算書数値や各種財務資料が計算された一覧表が支店の渉外担当者に戻ってくる、しかもその一覧表には怪しい数字、確認が必要な指標に※や#などのしるしがつけられ、丁寧に分析結果コメントが付される銀行もあるとのことです。
※しるしの箇所を経営者様や経理担当者の方に確認して疑問点を解消するとともに、改めて渉外担当者も決算書や勘定科目内訳明細書を分析していきます。

この時の決算書の分析の仕方は銀行担当者それぞれで異なる部分もありますが、優秀な銀行員ほど、理想のあるべきバランスシートと損益計算書が頭の中に出来上がっていて、その理想と皆さまの会社の現実数値との比較を行い、金額に大きなズレのある勘定科目が違和感として頭に残り、その違和感を解消するための事実確認を行う、その際に決算報告書以上に勘定科目内訳明細書を穴のあくほど見る、そのような分析をされていらっしゃるようです。

銀行員は何百社、何千社、人によっては何万社の決算書を見ています。
その経験の中で、創業年数、業種、商流、得意先・仕入先企業などの基礎情報を確認するだけで、この創業年数、この業種なら、本来はこのようなバランスシートであるべきという姿が頭に浮かぶようになっているようです。
例えば、創業年数がまだ若ければ自己資本金額は少なく取引銀行数も少なくて当たり前、創業年数が長ければ自己資本金額がある程度厚みがあり取引銀行数も多く、不動産はもっているだろうなといったイメージです。
また、製造業であれば売掛金・在庫は売上の何ヵ月分くらいあるのが普通、固定資産には土地建物や機械装置があってしかるべき、飲食業であれば売掛金・在庫は極めて少なく、店舗内装の建物附属設備や敷金・保証金と負債の長期借入金が見合った数字だろうな、といったイメージになります。
このイメージを基にして、皆様の会社のバランスシートを拝見すれば、「売掛金・在庫がイメージよりも多いな?」「創業年数が長い一方で自己資本金額がたまっていないな?」「この年商でこの程度の預金残高で大丈夫か?」などの様々な疑問点が自然と浮かび上がり、その疑問を解消していくといった分析手法で、違和感だけを探っていけば良いので非常に効率的に、短時間で企業の実態把握を行うことができます。
時間にして30分~1時間程度で企業の実態把握と、今後の資金ニーズを把握することが可能です。

銀行員と経営者様のズレ

小口の融資先については、コンピュータの分析結果がそのまま融資審査に使われる、つまり担当銀行員もまともに決算書を見ずに済ませることもあるそうですが、通常はコンピュータの分析結果に頼り過ぎず、担当者が実態把握を行った上で企業の状況判断を行っていきます。

先ほどから損益計算書、つまり売上高や利益について触れていないことに気づかれたかもしれませんが、銀行員は、売上・利益をあまり重視していない傾向があるようです。
この点が、銀行員と経営者様との一番のズレかもしれません。

もちろん年商10億円の企業と年商1億円の企業では、融資できる金額が全く異なりますので、融資実績を伸ばしたいというのが本音の渉外担当者にとって、売上高を全く無視することはありません。

ただ一方で、売上・利益を重視し過ぎない理由も明確で、一言で言えば「損益計算書はいくらでもごまかせるから」というのがその本音のようです。
「中小企業の粉飾決算は、9割は在庫で行われている」というのは銀行員の中では常識で、在庫を増やせばいくらでも利益を増やせるのは銀行員なら誰でも知っていますし、翌期の売上高を今期に前倒しして計上すれば年商も簡単に増やせることも知っています。
経営者様の中には絶対に銀行にバレていないと思い込んでいる方もいらっしゃるようですが、その根拠は「銀行員が指摘してこないから」であり、粉飾決算を見破った銀行員がわざわざそれを指摘してくれることがないことをご存じないようです。
銀行員が粉飾決算を指摘することがないのは当然で、粉飾を指摘すると「明確な根拠もないのに疑っているのか!」と逆上して銀行本部にクレームを言ったり、金融庁に電話したりするなど、非常に面倒なことになることを恐れているためです。
粉飾決算を発見した際の銀行員の行動は、「もう少し様子を見させてください」「もう一期、次の決算書も見させてください」などと期待感を持たせながら追加融資を控え、毎月の約定返済によって回収を進めながら静かにフェードアウトしていくことが多いものです。

ただ、銀行員のこのような考えを知らない経営者様は、利益が出てさえいれば大丈夫と固く信じて利益調整を図るのですが、資金繰りが不安な状況は変わりませんので、経常利益を大きく見せても法人税は払いたくないとの本音が数字に表れてしまい、経常利益はプラス、特別損失と法人税を差し引いた当期利益は数十万円の黒字にしてしまったりします。
銀行員の頭の中では「100万円以下の当期利益は実質赤字、しかも粉飾決算」との印象がありますので、十分にご注意いただきたいと思います。

では銀行員はバランスシートの何を一番重視しているかですが、もちろん「現金預金の残高」です。貸借対照表の中で一番重要だからこそ最初に書かれています。
銀行員が恐れているのは、会社の借金が増えること、自己資本比率が下がること、流動比率が下がること、などではありません。
借入金の大小や、自己資本比率・流動比率の高低などは、企業の倒産との直接的な関係は薄いもので、逆に、倒産間際の企業ほど、意外と自己資本比率や流動比率が高くなる傾向があります。つまり、金融機関がこれらの指標を重視していると信じ、粉飾により数字を作ってくるためです。
企業存続の秘訣はやはり現金預金の有無になります。借入金が少なくても預金が少なければ企業の倒産リスクは高まり、借入金が多くても預金も多ければ倒産リスクは低くなる、というのが銀行員のシンプルな考え方です。

実は、銀行員の決算書の見方については、決算書そのものを分析するというよりも、決算書という道具を利用して「企業の将来の資金繰り」を分析すると言った方が正しいかもしれません。

そこで言える結論は、経営者の皆様には決算書時点での預金残高にこそ、一番目を向けていただきたいということです。
決算書では借入金をギリギリまで減らすことが銀行の評価を高めると思い、期末が近づくにつれて資金調達を控えるだけでなく、繰り上げ返済を考える方も多く、その一方で預金残高もギリギリまで減ってしまうことがあります。
銀行員にお聞きすると、当面の資金繰りに不安のない預金残高の目安は「平均月商の2カ月分」、理想は「平均月商の3カ月分」と考えている方が多いようです。
月商を基準に考えるのは、企業の1ヵ月の売上高と、1ヵ月の支払い総額はほぼ一致していることが多いことから来ています。
月商1千万円の企業の翌月の支払いが1億円になることは無く、月商1億円の企業の翌月の支払いが1千万で済むこともありません。
つまり、毎月末において、月商とほぼ同程度の支払いが翌月待っている中で、売上1カ月分程度や1カ月分を下回る程度の預金しかない企業は資金繰りのストレスが非常に強く、せめて2ヵ月先くらいの支払いを今の手元預金でまかなえる程度は預金を確保しておいていただきたいというのが銀行員の本音のようです。
ですので、期末に借入金を減らし過ぎて月商1カ月分程度の預金になるよりも、借入金は残しながらも平均月商2カ月分相当の預金を残していただいた方が、決算書をもとに将来の資金繰り分析をする際に非常に安心できることになります。
また借入金というのは負債でありながら、一方で銀行の信用残高との見方もあり、銀行から信用されている証でもありますので、借入金が多い=財務内容が悪いという単純な見方を銀行員は行わないものです。

「銀行員が決算書に期待するのは、売上高・利益・自己資本比率や流動比率などよりも、まずは預金残高」、この視点を持っていただくことで、銀行員から見て資金繰りに不安のない企業=経営者様が資金繰りに悩むことなく本業に専念できる企業、つまり成長の可能性の高い企業という高評価につながるかもしれません。

税理士法人 古田土会計 エキスパートリーダー  森尾 勝俊

1976年、神奈川県生まれ。法政大学経営学部経営学科卒業。
税理士試験一部科目(簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法)合格後、地元の会計事務所勤務を経て、2006年古田土会計事務所(現、税理士法人古田土会計)へ入社。現在に至る。

上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。
インタビューにお答えした銀行員は、住信SBIネット銀行の社員ではございません。
住信SBIネット銀行における法人融資サービスは、「事業性融資dayta」のみです。本サービスをご利用いただく場合、決算書等の書類準備は不要となります。

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